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~楽しく、こっそり自己啓発~ もし本屋の高校生アルバイトが、休憩時間に「ビジネス本」を立ち読みしまくったら(3)ともえ、立ち読みを開始
ともえ、立ち読みを開始
ともえの夏休みのアルバイトが始まった。この本屋の営業時間は朝の6時から夜の11時まで。「モーニング」という早朝営業をしており出勤前の会社員や通学前の学生に立ち寄ってもらう営業時間にしている。ともえが、家が近いという理由で採用になったのもこの営業時間との関係が大きい。ともえは、この間で高校生として問題のない時間帯で夏休み中は6時間程度シフトに入ってほしいと言われていた。シフトで人気のない早朝から多く入ってもらえるよう希望され、ともえもこれを受け入れていた。
店長の意向で、社員もアルバイトも1時間に10分の休憩を言わば「強制」していた(アルバイトの時給から差し引くこともない)。仕事と息抜きをメリハリよくするためで、その方が仕事の質も良くなると考えていたからである。ともえの主な仕事は、本棚の陳列、売れ筋の展示、書店全体の整理・整頓、清掃、慣れてきたらレジになると聞いていた。
ともえのアルバイトの初日、この日は6時に出勤、店長の諸々の説明のあと、7時から徐々に仕事に就くことになっていた。ユニフォームであるエプロンと店員であることがわかる名札、そして「本のコンシェルジュ」と書かれたバッチも渡された。ともえは、コンシェルジュの意味がわからなかった。面接のときに聞いていなかった言葉である。
ともえ、「コンシェルジュって何ですか?」
店長、「あらゆることについて、相談を受け付ける人のこと。お客様とのちょっとした雑談から、お求めのこと、お困りのことをお聴きして、マッチした本をお薦めするとか、本がなければ他に適した情報を提供するとか、よくホテルにいるでしょ」 ※コンシェルジュとは
ともえは、それでも意味がよくわからなかった。何となく意味がわかったにしても、高校生である自分にそんなことができるはずがない。レジさえも慣れてからと言われているのに。よくホテルにいるでしょと言われても、そういうホテルに行った経験がない。相手に応じて例えを選んでほしいと思いつつも、店長の興味本位と思い付きに付き合うのも面白そうと、そのバッチを胸に着けた。
因みに、この本屋の名称は「本ま買いな!」である。創業者が、意外性との出会い(「ほんまかいな!」)があり、その中で本の魔術(ほんま)にはまり、結果、買ってください(買いな)という、明らかに顧客視点でなくお店視点での名称だが、それでもそこそこには繁盛しているから面白い。しかもそこにコンシェルジュとは、思い付きの蓄積である。
朝の7時、ともえの最初の仕事は、本棚の整理である。社員スタッフに最初付いてもらい整理のしかたのポイントを教えてもらい、あとは一人でと任される。お客様の立ち読みでズレたり、変わってしまった本の位置を整理するというもので、店内を巡回しながら、それをするというもの。モーニングへのお客様の入りは結構多かったが、そんなに多くズレたり、位置が変わってしまうことはなく、ほとんどがぐるぐる廻っているだけであった。
そうしていると、ビジネス本コーナーのあたりで、年の頃50歳くらいのお客様から声を掛けられる。サラリーマン風ながらやや貫禄があり大手の会社の偉い人といった感じである。コンシェルジュのバッチを見て声を掛けてきたようだが、見るからに高校生のアルバイトに、しかも、相手にはわからないことだが、アルバイト初日の自分に声を掛けるなんてと、ともえは思った。更に、話を聞いてみると、内容が内容であった。
お客様、「マイケル・ポーターってのは、最近のビジネスには合うのかね?」
ともえは、?っと思ったが、天然で持ち前のオープン型質問のスキルで「どういったお仕事をされているんですか?」と聴いてみた(※オープン型質問とは、イエス/ノーで答えられない質問のこと。話を活性するコミュニケーションの手法で、ビジネスでは会議や面談、営業時のやり取りなどで活用される)。純粋、素朴な聴き方がお客様の気を良くしたのか、どんどんと話し出し、商社で食品の材料を買い付けていることなどを話してくれた。
ともえは、全く意味がわからなかったが、何となく察した感じから「昔のことから今を考えるって大事ですよね」と言うと、お客様は、「ポーターの『競争の戦略』をもう一回読んでみるよ」と気分良さそうに言ってその場を離れて行った。
純粋、素朴さと相まって、コミュニケーションの手法としては、かなり「ませた」ものがあると、店長は遠くから感心して見ていた。思い付きと細やかな視点のバランスが「本ま買いな!」を支えているのかもしれない。
それはさておき、7時50分、ともえの一回目の休憩時間である。お店のルールで休憩時間はエプロンを外すこと、エプロンを外せば店内を見ていても良いということになっている。ともえは、エプロンを外し、ビジネス本コーナーで、さっきの話の本、ポーターの『競争の戦略』を探した。
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※ここに掲載される本の引用(注釈によって記載)を除くストーリーはフィクションです。
ヒューマンマネージコンサルティング株式会社
人材総合コンサルタント 研修トレーナー 眞下 仁(ましも ひとし)